他疾患で臨床試験進行中の銅化合物がアルツハイマー病マウスモデルの認知機能を改善

https://doi.org/10.1021/acschemneuro.6c00252

論文タイトル

Cu(ATSM)はアルツハイマー病のAPP/PS1マウスモデルにおいて血液脳関門のP-糖タンパク質量を回復させ、認知機能を改善する
Cu(ATSM) Restores Blood–Brain Barrier Abundance of P-Glycoprotein and Improves Cognitive Function in the APP/PS1 Mouse Model of Alzheimer’s Disease

ビジネスインサイト

  • パーキンソン病やALSを対象とした臨床試験が既に進行中で安全性評価が進んでいる化合物(Cu(ATSM))であるため、アルツハイマー病へのドラッグリポジショニング(適応拡大)においてヒト臨床試験への移行を迅速化し、開発コストを削減できる。
  • Aβの産生抑制や直接除去とは異なり、血液脳関門(BBB)の排出トランスポーター(P-gp)という「脳のゴミ排出ポンプ」の修復・機能を標的とした新たな創薬アプローチ(Target ID)を確立し、治療薬市場の勢力図に影響を与える候補。

概要

血液脳関門(BBB)の排出トランスポーター(P-gp)の修復および脳内アミロイドβの蓄積減少を目的として、ADモデルマウスに銅化合物「Cu(ATSM)」を投与した結果、脳微小血管のP-gp量回復、Aβ42濃度の減少、および長期空間メモリの大幅な向上を明らかにした。

研究の詳細

背景

アルツハイマー病(AD)は、脳内におけるアミロイドβ(Aβ)ペプチドの蓄積を特徴とする神経変性疾患である。通常、血液脳関門(BBB)の主要な排出トランスポーターであるP-糖タンパク質(P-gp)がAβのクリアランスに重要な役割を果たすが、ADにおいてはP-gpが著しく機能が低下して毒性タンパク質が脳内にトラップされる。この神経血管機能障害とAβ蓄積を、バイオメタル調節(銅の補給)によって解決できるかが課題であった。

主要な結果

  • 10ヶ月齢の家族性ADモデルマウス(APP/PS1)へのCu(ATSM)投与(30 mg/kg/dayを56日間)により、媒体(vehicle)投与群と比較して、脳微小血管のP-gp量が24.1%回復し、Cu(銅)濃度が229.8%回復した。
  • 同治療により、APP/PS1マウスの脳皮質におけるヒトAβ42(hAβ42)の濃度が42.1%有意に減少した。
  • マウスの皮質内に注入されたヨウ素125標識Aβ42の脳内クリアランスにおいて、11.9%の向上傾向が確認された。
  • バーンズ迷路パラダイム(空間学習能力や記憶力を評価するための行動実験)による評価において、治療されたAPP/PS1マウスの学習および長期空間メモリが43.8%有意に向上した(p=0.0087)。誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)により、脳微小血管濃縮画分におけるCu濃度の上昇が確認され、アミロイド減少と行動上の利益を伴う神経血管ターゲットエンゲージメント(標的結合)が示された。また、この銅治療は脳の免疫細胞であるmicrogliaを活性化させ、毒性プラークを消費・分解させている可能性(研究チームの推測)が示唆された。

材料と方法

  • 家族性ADのAPP/PS1マウスモデル(10ヶ月齢)を使用し、Cu(ATSM)(30 mg/kg/day)または媒体(vehicle)を56日間日常的に投与した。
  • 誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を用いて脳微小血管濃縮画分におけるCu濃度を分析し、バーンズ迷路パラダイムを用いて学習および長期空間メモリを評価した。
  • 脳皮質のヒトAβ42(hAβ42)濃度の測定、および皮質内へヨウ素125標識Aβ42を注入することによる脳内クリアランスの追跡評価を行った。

実用化までのフェーズ

前臨床研究フェーズ(ADマウスモデルを用いた有効性・作用機序の検証段階)。ただし、対象物質(Cu(ATSM))自体はパーキンソン病やALSなどの他の神経変性疾患を対象とした安全性・耐容性の臨床試験がすでに進行中である。

社会実装に向けた課題

Aβが脳から血液中へと排出される正確なクリアランスの生物学的経路を精密に追跡・特定すること、および初期症状を持つ人間のアルツハイマー病患者を対象とした臨床試験において、ヒトでの有効性、適切な投与量、安全性を検証すること。

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