https://doi.org/10.1073/pnas.2528760123
論文タイトル
光制御可能なストレスホルモン受容体分解薬によるがん細胞休眠の光制御破壊
Light-controlled disruption of cancer cell dormancy via photoswitchable stress hormone receptor degraders
ビジネスインサイト
- 治療抵抗性や再発の原因となる「がん細胞の休眠状態」を誘導する糖質コルチコイド受容体を、全身性のオンターゲット毒性を回避しつつ腫瘍局所で特異的に分解・制御する新たな創薬標的同定および局所治療技術の開発に影響を与える可能性。
- 本システムはモジュール式であり、乳がんのエストロゲン受容体や前立腺がんのアンドロゲン受容体など、他のホルモン依存性固形がん治療薬のスクリーニングやパイプライン開発の勢力図に影響を与える可能性。
概要
光で可逆的・波長特異的に制御できる新型の標的タンパク質分解誘導薬「photoPROTAC」を開発し、全身性の副作用を回避しながら、肺がん細胞等の治療抵抗性や再発の原因となる「がん細胞の休眠状態」を特異的かつ時空間的に精密に打破できることを明らかにした。
研究の詳細
背景
糖質コルチコイド受容体を介したストレスホルモンシグナル伝達は、非リンパ性固形腫瘍(特に肺がん)において、がん細胞に可逆的で薬物耐性のある「休眠状態」を誘導し、治療を無効化させる。しかし、GRは炎症抑制や免疫システムなど全身の正常な生理機能において必須の役割を果たすため、従来のPROTACを用いた全身性のGR抑制・分解は重篤な副作用(オンターゲット毒性)のリスクがあり実用化が困難であった。本研究は、光応答性要素を組み込むことで、腫瘍組織でのみ精密に糖質コルチコイド受容体を分解する手法の開発を試みた。
主要な結果
- 未報告の(OEt)2-および(NMe2)2-置換光スイッチを含む、光スイッチ可能なアリルアゾトリアゾールまたはアリルアゾピラゾール骨格を組み込んだ多様なphotoPROTACシリーズを合成した。
- Me2-および(OEt)2-置換基を持つアリルアゾピラゾールベースのGR photoPROTACは、ほぼ定量的な光異性化(95% Z異性体、89%〜92% E異性体)を示し、光退色を起こさず、ジメチル スルホキシド(DMSO)中で3〜12.2日の熱的半減期を有することが証明された。
- 開発した化合物のうち「KH-5-306」および「KH-5-309」は、熱力学的に安定なE異性体の形態において、低ナノモル濃度で強力、特異的、かつ可逆的なGR分解を誘導した(Z異性体状態では活性が著しく低下)。
- 非小細胞肺がん(NSCLC)モデルにおけるトランスクリトームプロファイリングにより、「E-KH-5-309」が糖質コルチコイド受容体駆動型の休眠関連遺伝子発現プログラムを破壊する一方、Z異性体は機能的に不活性であることが示され、遺伝子活性の解析から実際に細胞が休眠状態から目覚めることが確認された。
- 本システムは、通常の光条件下(E異性体)では接続ピースが伸びて分解酵素を受容体に接近させ処分マークを付加するが、特定の波長の光を照射すると接続ピースが曲がり(kinked)活性をオフにできる。これにより、腫瘍から正常組織へ移行した物質を光で特異的にオフにすることで周辺組織を保護し、副作用を大幅に軽減できる。
材料と方法
- アリルアゾトリアゾールまたはアリルアゾピラゾール骨格、および新規置換基[(OEt)2-、(NMe2)2-]を組み込んだ、光スイッチ可能なGR標的 photoPROTACの合理的合成。
- 光照射による光異性化効率(Z異性体・E異性体比率)、光退色耐性、およびDMSO中での熱的半減期の測定。
- 非小細胞肺がん(NSCLC)モデルの実験室培養細胞を用いた、低ナノモル濃度でのGR分解能、可逆性、およびトランスクリトームプロファイリング(遺伝子活性解析)による休眠打破の検証。
実用化までのフェーズ
基礎研究フェーズ(ラボ内の非小細胞肺がん細胞培養物を用いたメカニズム解明およびin vitro検証段階)。
社会実装に向けた課題
①生体(生存生物/living organisms)モデルにおける有効性と安全性の検証、②光の組織透過性が数ミリメートルに限定されるため、肺がん治療等に向けた内視鏡による光照射技術の最適化、③より深部のがん組織へ到達させるため、近赤外線などの長波長に応答する光スイッチの開発、④乳がん(エストロゲン受容体)や前立腺がん(アンドロゲン受容体)といった他のがん種へのシステムの最適化と応用展開。


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